ロンドンV&A「Kimono:Kyoto to Catwalk」回想記・後編

【着物研究家 シーラ・クリフさんを迎えて】

【前半から続く】2020年にイギリス・ロンドンで開催された「KimonoKyoto to Catwalk」。「ルミロック」はパーマネントコレクションとして2点収蔵され、浮世絵版画の髪型がモチーフの「毛波」ゆかたはボディに着せた形で、新しいクリエイションのコーナーに展示されました。ルミロックデザイナーの芝崎るみ、日本の着物の新しいクリエイション部分のコーディネート役となったシーラ・クリフさんに振り返っていただ対談の後半。ロンドンに行く目的だった、VAでのワークショップ「家紋を作ろう」には、様々な国から参加者が訪れました。

V&Aに永久収蔵された作品「毛波」(左)と「アポロ」(図案・芝崎るみ)

(司会)るみさんは最初、展示会の打診があった時「展示だけではもったいない」と思ったそうです。

(るみ)自分がつくるものが、着るものでは無く、ガラスケースの中の展示品として扱われることが、着物としてかわいそうな気がしました。そこで、ロンドンでは人との交流に力を入れたいと思いました。ちょうどそのころ、「図案を書こう」「家紋を作ろう」などルミックスデザインスタジオとしても体験型のイベントを進めており、VAのアジア担当部長、KimonoKyoto to Catwalkの責任者のアンナジャクソンさんにお願いしてみたのです。そうしたら、VA博物館の目的は、様々な文化を紹介して体験したり、教育することが目的であり、家紋のワークショップはおもしろいのではないか、と考えてくださり、実現にいたることになりました。

V&A家紋ワークショップにて、生徒さんにアドバイスする芝崎るみ(右)

V&Aワークショップのようす

(司会)実際におこなって、海外の方には家紋という概念に、皆さん戸惑いませんでしたか?

(るみ)忙しいスケジュールだったのですが、VAがワークショップの参加者を公募するときに、参加者には宿題を出しました。自分の説明を考えて欲しい、そして好きなマークを持ってきてくださいと。イギリスだけでなく、周辺の国からも合わせて14人が参加されました。実際には皆さんは、いろいろなタイプのデザインを何個も作って来られました。日本でも同様のワークショップを行っていましたが、自分を形にするところにとても迷われるのです。海外の方の押し出しの強さにはあらためてびっくりしました。常に自分がどういう人間であるのかを、考えて生きているからこのワークショップが成功したのかもしれません。

(シーラ)私も家紋のワークショップに参加しました(下写真、これは日本でのワークショップにて)。家紋の柄は着物です。「私から着物をとったら、何も残りません」という気持ちを表しました(笑)。

(るみ)イギリスでは、家族3名の関係のことを勾玉文様で表したい方、ご主人と自分の職業(シャツデザイン)をかさねて、まことに雅な印象の家紋を描かれる方、パンチの効いたロックテイストの稲妻に月を書く方、どれも見所がありました。。描いた家紋を型紙に模様を彫って、最後はそれぞれの家紋の型紙で捺染してお渡ししました。トートバックか手ぬぐいに家紋をプリントして、それぞれが持ち帰っていただくのですが、我々が捺染を手伝おうとしても、みんな自分でやるっていって、聞かない(笑)。

(司会)渡英の最初の方、2月28日に行ったRoyal College of ArtRCA・王立美術院)のイベントは、シーラさんは講義を行いました。

(シーラ)以前から、王立美術院の先生とは学会で交流していました。今回は、RCAでアジアのテキスタイルを長年研究しているサラ先生が協力してくれくれました。私の講演には、V&Aキュレーターの方も参加してくれて、「イギリスと西洋と東洋の交流」について話してくれました。

講義の裏で、現代着物の作家の「Kimono Magic Society」4社(※注釈1)は、とても素敵なイベントをおこなっていました。自分たちがデザインした着物をプレゼンテーションして、学生に着せたり、着物を着たことがない生徒さんたちに、帯の形を好きなように作ってもらう企画もしました。しかし、ちょうど学校がストライキに入ってしまって準備が難航したんです。

(るみ)でも、ちゃんとできたんですよ。Royal College of Artに集まった方は、生徒さんや大学院生、聞きつけてきた着物好きの先生など多岐にわたっていたようです。若い方も目をキラキラさせて作っていました。

(司会)最後は、みんなで着物を着て写真を撮る、というイベントになりましたね。

(シーラ)着物はKimono Magic Societyの4ブランドのほか、私が持っている着物も持って行きました。イギリスにいる着付けができる日本人の友人にお願いして。小物も用意して。みんな着物を着て写真撮影をした後着替えるんだけど、みんな着物を着たら脱ぎたくないの(笑)

(るみ)着物を作ろうというのは、RCAの学生さん達と是非行いたかったイベントです。「日本人が作るから着物」ではなくて、生地を大切に考え、同じフォーマットで新しい装いを考えるということは、現在でも通じるクリエイションの手法ではないかと思っています。着物はクリエイションから成り立っているんだということを実証したかったのです。着物を丸ごと作ることも考えましたが、不慣れな土地で、ギリギリできることを絞って、事前に準備して、日本からの参加デザイナーも本質をアピールできる場を考えました。

繻子の無地の帯を用意して、参加学生は4班にわかれ、リボンやレースなどの材料をクルーガンでガンガン留めて、縫ったり貼ったりして作り上げる。みんなノリノリでした。ロンドンの人たちは、古着屋さんで結構着物も売っているようで、日本で考える伝統衣装としての着物ではなく、いまのファッションとして自由に楽しむkimonoとして触れる機会があるようです。ワークショップも大盛り上がりで、イベント立案の私たちも貴重な経験をさせていただきました。そこに、着物の新たな可能性も感じました。

(司会)着物や小物の販売も、ロンドンでされましたね。

(るみ)29日にロンドンのオールドストリートにあるギャラリー「sway-gallery」でキモノマジックソサエティのグループで展示を行い、着付けをして写真撮ってもらうサービスや、グッズや着物の販売もしました。最後はファッションショーも行い、充実したイベントとなりました。着物がロンドンで売れるのかということもありましたが、数人の方は着物を気に入ってくれて、買ってくださる。日本の着物好きな人たちと、こちらの方は同じような気持ちのだなとわかり、とても参考になりました。また、ルミロックはVA博物館にも収蔵されたゆかたの柄で羽織をつくり、博物館内で販売もしていただくことができました。

(司会)3月に入って一週間ほど、シーラさんはLondon College of Fashion (ロンドン芸術大学 )にて着物の講義と着物の作り方の授業、また3月13日には日本の文化発信拠点として外務省が運営するジャパン・ハウス ロンドンで浴衣の注染の実演と 宮城学院女子大学の大久保尚子教授による注染などの技法に関する講演があり、限られた滞在期間に多くの人と交流をしましたね。

(シーラ)ロンドン芸術大学の授業では、反物からきものを作る方法を教えました。実際の大きさの5分の1のミニサイズの着物も作りました。それだけではなくて、着物文化の背景などの講義も行いました。参加した人はこの学校の学生やデザイナーなどです。

(るみ)1日ロンドン芸術大学にもお邪魔して、私も生徒さんに浴衣を着付けたり、こうした小さいものづくりの可能性を、学生さんと意見交換しました。すでに服のブランドを持っている方もいらっしゃいました。皆さんサイズが大きくて!私も大変勉強になりました。

ジャパン・ハウス ロンドンのイベントは、最初シーラさんが外務省にお話に行った時に(私はサポートとして同行)運営はイギリスのキュレーターにおまかせしているということで、日本から連絡を取りながら、事前に準備しました。「ファッションとして展示したい」と相談したところ、日本の伝統産業に関する企画の方が良いということで、「デザインと伝統ー注染技法による浴衣」という内容にしぼりました。プリミティブでデザイン要素の強いものづくりはきっとわかってくれる。ルミロックストア店長で型彫担当の金子一昭さんもロンドンに来て、実演する(金子さんは以前、きものの染色職人をしていました)。浴衣も展示する。さらにプラスして、大久保先生が長年ご研究中の、江戸時代からデザインする人と制作する人のいわば「ファッション的な活動」についてはあまり日本の中では語られることがない文脈ですが、そちらの発表もここで行う。そういうイベントの組み立てをいたしました。伝統的な捺染技法は、生地に型紙を敷き、染めない部分に糊を塗って色を置きたい部分に染料を注ぐというもの。無事に染め上がった時、会場から拍手も湧いたんです。その時の様子は、私が運営するユーチューブチャンネルで公開しています。https://www.youtube.com/watch?v=uNwNEcAZCTc

(司会)大久保先生は、どのようなことをされましたか?

(るみ)大久保先生は、私の高校時代の同級生なんです。着物を研究されてる方は多いと思いますが、江戸後期以降の明治・大正・昭和期以降の、庶民も含めた着物文化の研究や分析をしていらっしゃいます。特に東京では資料もあまり残れされてません。大久保先生にはそれらの講義をしていただいて、大変貴重な機会となりました。

(司会)今回の「KimonoKyoto to Catwalk」や、るみさんたちが企画したワークショップに参加しロンドンなど海外の方、日本の着物に関心を寄せる海外の方は、どういう方たちでしたか?

(シーラ)ロンドンや海外には、日本文化のファンがたくさんいます。あと伝統的なデザインや布、クラフトに関心が高い人も多く参加しました。日本の布はデザイン性も高く質も高いです。日本アニメファンも多いのですが、日本の伝統文化のファンはものすごくたくさんいます。

(るみ)シーラさんに伺いたかったのですが、シーラさんといえば着物ですけど、着物が好きだから、日本に来られたのですか?

(シーラ)空手や武道を習うため、夏休みの時だけ日本に来ました。最初、着物に出会った時は外側のことだけしかわかりませんでした。掛かってあった長襦袢が素敵で、これが着物だと思って買ったんです。こんな綺麗なものが下着ただと知って驚いたんです。

それで、綺麗な着物をお店で見て回るようになって……。ある時とても高価な着物を買ってしまったから、自分で着られるようになりたいと思い着付け学校に通い始めたんです、当時はインターネットの動画で着付け方法を覚えることはできませんでしたし。

(司会)VAでも展示された、2017年に発売された山形在住のアーティスト・Akira Timesの写真集『kimono times – wafuku anarchist – 』(メディアパル発行)にも、シーラさんは深く関わっています。

(シーラ)Akiraは山形生まれで実家のリンゴ農園の仕事をしながら、キモノの写真を撮ってオンラインで作品を発表してました。彼は独学で、アール・ヌーヴォーとかアール・デコ、ロックミュージックなど自分の好きなものを考えて、自分の頭の中で分析する。そういったなかでできた本で、V&Aでも、とても重要な本だと捉えて、この本の展示も行いました。Akira本人はロンドンには行けませんでしたが、彼のとった写真が堂々と会場内を飾り、とても誇らしく思いました。

(司会)kimono kyoto to catwalk」は今年11月、フランス・パリのケ・ブランリ美術館での開催が決定したようですね!

(るみ)同展はロンドンで開催された後スウェーデンへ巡回されましたが、コロナの影響もあり記念式典も大きくはできなかったとおもいます。今もコロナ禍は続いており、美術館などの運営も大変だと思いますが、パリ開催でもロンドンの時のように現地の方と我々のもの作り→ものづくりを通じた交流を持ちたいと考えております。(終わり)

(※注釈1)イギリス・ロンドンのV&A博物館で開催された「KIMONO: Kyoto to Catwalk」(2020年)に伴い、同館に永年収蔵が決定した現代の着物ブランド「モダンアンテナ」「ルミロック」「重宗玉緒」「iroca」の4者が結成した、着物の楽しさなどを発信するためのグループ。